コラム
By
Management Team
基幹システムはいかにつくられたか
鈴木孝一
基幹システムはいかにつくられたか
(村岡)
基幹システムの定義は、よく分かりました。私の所は小売業ですが、同じ小売業にもかかわらず、各社が自前でシステムを構築しています。小売業共通のシステムを使えばよいと思いますが、何故そうはならないのでしょう。
(鈴木)
そうですね、この疑問に答えるためには、システム導入前に遡り、どのように処理をしていたのかを考えてみると良くわかります。小売業と言っても、販売する商品も異なれば、販売店も数店舗から全国展開までと規模の違いもあります。また関連会社との関係もまちまちです。
(鈴木)
当時のネットワークは、電話やFAX程度でしたから、事務処理は、同一の会社であっても都内店、地方店などでも異なるのは当たり前でした。小規模店舗は処理量が少ないだけで、大規模店舗と同様の事務をこなさなければなりません。したがって事務処理の巧拙は店舗収支に大きく影響していました。
(村岡)
ちょっと待ってくださいね。システムは構築の前段で要件定義が必要ですが、この話を伺うと、店舗別の要件定義が必要になってしまいます。そもそも店舗規模などで、いくつかのパターンへの統一は可能なのではないでしょうか。
(鈴木)
良く気付きましたね。その通りです。優秀な事務管理者がいる店舗は効率が良かったのです。さらにある程度の事務統一や従業員教育をおこない、全店の事務レベルの底上げも行われていました。
(村岡)
なるほど優秀な事務管理者に要件を定義してもらえば、素晴らしいシステムを全店に展開する事が出来るので、会社規模での効率化につながる。そのぐらいなら私にも容易に理解できます。
(鈴木)
残念ながら簡単にそうはならないんです。システム化の要件定義は、優秀な事務管理者のやり方を踏襲しないほうが、将来性がある事だってあるんです。
(村岡)
えっ何故ですか。
(鈴木)
はい、ここが難しいところです。コンピューターが処理をする場合、多少回りくどくても誰もが分かりやすい事務処理の方が、プログラムが複雑にならずに、それがビジネス変化への対応力に大きく影響するからなんです。
(村岡)
うーん、分かったような、分からないような。
(鈴木)
そうですね。それでは高速道路の料金所をイメージしてください、最近では一般レーンよりもETCレーンが多くなってきました。一般レーンには人がいて車種を判断し通行券を渡し、出口では現金やカードでの決済、さらにはETC利用者への対応も行わなければなりません。人がいるということは雇って教育もしなければなりません。
(鈴木)
そう簡単に一般レーンは増やせませんが、ETCレーンはETC装着車のみという制限はありますが、これを増やすことは容易です。さらに大切なことは、単位時間当たりの通行量(スループット)を上げる事が出来ます。料金所前の渋滞が解消されるので、高速道路の利用者が増え、売り上げの向上にもつながる話になります。
(村岡)
一般レーンもETCレーンも、事務の内容は同じ気もするんですが。
(鈴木)
そうでしょうか。一般レーンの事務処理は通行券がベースとなっています。入口で車種別に通行券を渡し、出口では、その通行券を回収し通行区間に応じた料金を徴収します。通行券を利用した料金徴収システムが要件定義のポイントになります。
(鈴木)
ETCの場合はどうでしょうか、通行券がない代わりにETC利用登録された車の認識番号を高速道路の入口と出口で受信機が受け取ることで、後日料金が精算される仕組みになっています。極端に言えば車ごとの料金設定も可能で、利用時間帯割引や、周遊などのサービスもすでに行われいます。
(村岡)
なるほどそこまで聞くと少しわかってきた気もします。ETC発信機を搭載した車が普及することまでは、さすがに想定できなかったということですね。
(鈴木)
というよりも、従来型のシステム要件定義の多くが、効率的な事務処理を前提とした要件定義を行っていますから当然と言えば当然なんです。個車別に料金を決めるのは、人が行う事務作業では非効率で現実的ではありません。
(鈴木)
多くの企業で、商品やサービスにコードを付与し、通行券のような紙伝票を使い、これを巧みに利用することで、事務を効率的にこなしてきました。
(鈴木)
これまでの基幹システムは、個社最適で構築された事務支援システムであり、 要件定義は、十人十色、そしてシステム開発も十人十色、 業種が同じでも、事務処理の違いから、同じシステムとはならなったのです。
(村岡)
ということは同業のシステムが一歩先を行っているからといって、自社の事務との違いを十分認識しないまま採用すると、現場が混乱してしまうということでしょうか。
(鈴木)
その通りです。システムと事務との相性は、会社の規模や歴史によって大きく左右されるからです。やはりここは受け入れられないと、導入予定のシステムに対して手を加えると、思わぬ罠にはまってしまいます。
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